神奈川県にお住いの36歳男性(福祉作業所農作業員)が2022年5月頃に読んだ『別冊NHK100分de名著 読書の学校 苫野一徳 特別授業『社会契約論』 (別冊NHK100分de名著読書の学校) 』のレビューをご紹介します。
本書の概要や内容をわかりやすく要約してまとめておりますので、書籍を読んで学んだことや感想、評価や口コミが気になっている方は参考にしてください。
目次
『別冊NHK100分de名著 読書の学校 苫野一徳 特別授業『社会契約論』』を購入したきっかけ
NHKの100分de名著シリーズは、有名書籍の要点を分かりやすく簡単に説明してくれる良著として個人的に好きなシリーズであり、そんな中でこの本を見つけたので、ぜひ読んでみたいと思うようになり、手にしました。
社会契約論というと、ルソーの記した社会と人間の関り、というくらいの認識しかなく、文学や哲学方面の方が好きな私としては、初めはあまり興味が持てませんでした。
しかし、社会契約というのは、今日の社会システムの土台となっている部分であり、その根底を理解する事には、なにがしかの利益があるのではないか、と思い至り、読んでみる事にしました。
候補に挙げていた書籍1:『100分de名著 三木清 人生論ノート』
候補に挙げていた書籍2:『100分de名著 ウンベルト・エーコ 薔薇の名前』
『別冊NHK100分de名著 読書の学校 苫野一徳 特別授業『社会契約論』』の概要
ルソーの描いた社会を形成する上で必要な社会契約論について、著者である苫野一徳さんが説明してくれる一冊です。
具体的に社会契約論についても説明されていますが、その他に、哲学についての所見が紹介されていて、それを断片的に見ても面白いです。
例えば、ルソーは次のような事を言っています。
私(ルソー)より博学な哲学者はたくさんいる。だが、彼らの思想は自らの血肉となっていない。彼らは、ただ他人よりも物知りになりたいと思い、まるでそこらにある機械の仕組みを調べるように、好奇心だけで宇宙の研究しているのである。
知識が身についているとしても、それを理解した事にはならない、というのは、体験としてわかるのではないか、と思います。
例えば、骨折して骨を折ったら痛い、という事も、知識で知っているだけでは、その痛み、不便さは分かりません。
骨折について正確に知る事ができるのは、実際に骨折してその痛みを体験した人だけです。
このように、人間というのは、知識から学びそれを理解する事が難しく、その過程にどうしても体験や経験がないと、血肉化しない、という側面があると思います。
ルソーは、そのような事を述べているのだと思いましたし、おそらく、それにもかかわらず、歴史に学び、過去の過ちから正しい行動を取れるようになる事が重要なのでしょう。
本文中には、このような達見が至る所に記されていて、なかなか完成度が高いと思いました。
『別冊NHK100分de名著 読書の学校 苫野一徳 特別授業『社会契約論』』の基本情報
基本情報
- 出版社:NHK出版
- 著者:苫野 一徳
- 定価:本体800円+税
- 発行年月:2020年11月25日
- ページ数:141ページ
- ISBN:978-4-14-407264-2
- 言語:日本語
- 公式サイト:https://www.nhk-book.co.jp/detail/000064072642020.html
『別冊NHK100分de名著 読書の学校 苫野一徳 特別授業『社会契約論』』の目次
目次
- 第1講 ルソーの読み方 その人生と思想
- 第2講 社会契約論の核心
- 第3講 「よい社会」の根拠は「一般意志」にあり
- 第4講 若者たちと考える『社会契約論』の可能性
『別冊NHK100分de名著 読書の学校 苫野一徳 特別授業『社会契約論』』のYouTube(ユーチューブ)
『別冊NHK100分de名著 読書の学校 苫野一徳 特別授業『社会契約論』』についてYouTube(ユーチューブ)でわかりやすく解説してくれている動画がないか調べてみました。
残念ながら本書を紹介しているYouTubeチャンネルはなかったため、本ブログにて要点をまとめてお伝えできればと思います。
『別冊NHK100分de名著 読書の学校 苫野一徳 特別授業『社会契約論』』から学んだことの要約とまとめ
『別冊NHK100分de名著 読書の学校 苫野一徳 特別授業『社会契約論』』から私が学んだポイントは大きく3つの内容です。
私が学んだこと
- 内的なものは外的なものである
- 一瞬の激しいきらめきが人生を肯定してくれるのか、穏やかな平穏の中に幸せがあるのか
- 芸術は日常を豊かにするか
社会契約論を中心として、哲学的な命題について様々な見解が提示されていく、という面白い本に仕上がっていると思います。
それは、神の意志についての考察にも及んでいて、例えば、マルブランジュという哲学者は、神の意志を一般意志つまり自然法則であるとして捉えました。
自然に発生する風、海の満ち引き、木々の揺らめき、子供たちの遊びまわる声、それら全てが神の意志によって行われる自然法則であり、そこに神の意志が表れていると説きました。
人間では、その論理性を全て把握する事は不可能ですが、人間の能力を超えて、神は、その意志を示されている、というのは、なかなか面白い考えだと思いました。
つまり、神は草原を吹き流れる風のように穏やかに存在し、子供たちが田園風景の中を遊びまわるのどかな風景の中で憩い、大都会の摩天楼できらびやかな姿を見せたかと思うと、大海原のような大きな心を持っている、といった具合で、これは、私達人間の知性で捉えられる解釈を超えているものであり、しかし、そのような風景の中に、神の存在の片鱗を見い出す事ができるような気がしました。
このような哲学的命題に興味を持つ方は、この本を一読する事をおすすめします。
内的なものは外的なものである
本文の中で、最も内的なものは、時至れば最も外的(普遍的)なものになる、とアメリカの哲学者エマソンは述べています。これはいったいどういった事なのでしょうか。
著者は、これを芸術家に例えて、優れた芸術は、芸術家の「最も内的なもの」の表現に他ならず、それが優れていればいるほど、「最も普遍的なもの」になる、と説明しています。
また、自らの内側の世界を掘り進めていった先に、全ての人がつながり合う普遍的な世界が開けている、とも述べています。
これは、学問について考えてみても当てはまる事でしょう。
勉強を進めて、自分の中で考えて考え通した最も内的な思考が、学問的な正答という最も外的で普遍的な正解に至る、というのは、どこの世界でも当てはまる学問の基本構造です。
また、心で思っていた内的な考え事、恋する思いなどは、その思いを告白し述べる事で、他人に伝わり、外的なものとして形を取る事になります。
形を取れば、それは普遍なものとして認識され、そこから世界は広がっていきます。そして、それが相談事だった場合は、外部の意見に触れることで、外的な答えに変化するかもしれません。
このような哲学的命題がこの本には多数載っていて、自分なりに色々と考える契機となり、学ぶものも多く面白かったです。
一瞬の激しいきらめきが人生を肯定してくれるのか、穏やかな平穏の中に幸せがあるのか
ニーチェは、この一瞬がずっと続けばいいのに、という恍惚的な幸福を味わう事ができれば、その人生は苦悩が永遠に続くものだとしても、生きるに値するとしました。
これに対して、ルソーは、「喜びも苦しみも、欲望も不安も感じず、ただ感じるのは自分の存在だけ、しかも、その存在感だけで自分が満たされる状態。もしそんな状態が続くならば、それを幸福と呼んでもいいだろう」と言いました。
私は、基本的に痛い事や苦悩が苦手なので、個人的にはルソーの幸福感に惹かれるのですが、ニーチェの思想の根底に広がる熱い思いも嫌いではありません。
幸福についてルソーが考えた事は、個人的には、仏教的な無我の境地に似ているような気がします。
感覚を自分の存在だけに集中してその感覚の液体が体を覆い身体に満たされているような状態、これは、禅的なリラックスの状態に近いと思います。
穏やかな心の平穏が幸せと呼べるものである事は、実際に座禅を組んでみると分かりますし、ルソーもそれと似たような事を言いたかったのではないか、と思いました。
何もない事に幸せを見い出す事ができる方は、それだけで人生の達人であり、よい生き方をしていると思います。
ルソーもそのような境地を目指したという事がこの一文から伝わってきますし、仏教的思想に近い、善いものを学べたような気がしました。
芸術は日常を豊かにするか
ルソーは、懸賞論文に応募し、「学問と芸術の進歩は、習俗を純化する事に寄与したか?」と問い、それにノーを突きつけます。
しかし、これを日本的な立場から見れば、個人的には答えはイエスになりうると思いました。
例えば、日本の芸術である茶道は、茶を点てる事に全てがある、といった思想を持っており、それは単なる作法を超えて、自分を高める事を目標として設定しており、自己を純化する効果を持っていると思います。
また、ヨーロッパの街並みのように、景観に美を取り入れれば、普段の景色が純化され、日常が心躍る楽しいものになるのではないか、と思います。
これは、ヨーロッパを旅行した方なら分かると思うのですが、とにかく街並みが美しく、習俗が洗練されていて、美を普段の生活に取り入れている事が分かります。
これなどは、芸術を習俗に取り入れ、感性を純化させる事に寄与しているのではないか、と思いましたし、日本の普通の街並みにも美を取り入れる事を検討してみても良いのではないか、と思いました。
このように、美を通常の生活の中に取り入れるという視点は、この本から学ぶ事ができましたし、心に美を求めるだけでなく、日本もヨーロッパの街並みのようにきれいな町づくりを行うと、習俗を美に昇華する事になるのではないか、と思いました。
『別冊NHK100分de名著 読書の学校 苫野一徳 特別授業『社会契約論』』の感想
ルソーの社会契約論について、著者の説明を借りると、それは、みんながみんなの中でより自由になるための契約なのだそうです。
その中で、絶対的な統治者ではなく、みんなの一般意志によって社会を統治する必要性が説かれており、これはいい考えだと思いました。
また、一般意志について、それは単なる多数決ではなく、様々な意見を出し合い、それぞれのいい所や目立つポイントを組み合わせて形成されるものであると説明されていて、そこに、皆が参加する社会の良い部分が反映されているのではないか、と思いました。
例えば、Aさんの意見の良い所をBさんの意見と組み合わせて土台として、そこにCさんの意見を主題として加える、など、単なる多数決ではなく、否定された意見もその中にある良い所を活かしながら、最終的に皆の意見が代表された一般意志を作る、という方式が描かれており、これこそ社会契約論の良い所ではないか、と思いました。
このように、著者は社会契約論について分かりやすく説明してくれており、初心者でも得る物の大きい良い本だと思います。
『別冊NHK100分de名著 読書の学校 苫野一徳 特別授業『社会契約論』』の評価や口コミ
他の方が『別冊NHK100分de名著 読書の学校 苫野一徳 特別授業『社会契約論』』を読んでどう思われているのか、評価や口コミを調べてみました。
苫野一徳さんの考え方の基礎がわかる読みやすい本です。
Amazonの口コミ
とても平易な説明で分かりやすかったです。
ルソー自身の著書も読もうかな、という気持ちになりました。
Amazonの口コミ
社会契約論の重要さを実感した、グローバルの問題、教育の重要性も同時に痛感した作品。ルソーも想定していなかった現代の課題、グローバルな課題に対していかにして取り組むべきか勇気もわく作品。
Amazonの口コミ
みなさん本書を読んで学んだことが多いみたいですね!
おわりに
最後の部分で、自由な社会って全てが自己責任になって、かえって生きづらい気がするんです。
だから自由ってそんなにいい事でもないと思うんです、というセリフがありますが、ここに日本社会の難しさがあると思いましたし、この問題を解決する事が、次の社会の発展に活かせるポイントなのではないか、と思いました。
ネパールのスラム街にいるアイサリちゃんは、9歳であるにも関わらず、家事手伝いや兄弟の世話をするために学校に行く事ができず、2年生で学校を辞めてしまいました。
学校に通っていた時のノートを読み返しては、もう一度学校に行きたい、と叶わぬ夢を願っています。
それに比べたら、自由を謳歌できる日本の学生の方が恵まれている事は確かですし、その事に気付ければ、人生はより鮮やかな色彩を伴って表れ、豊かな人生を送れるようになるかもしれません。
しかし、どのような社会でも、個々人がみんな苦悩を背負っている事は変わりありませんし、どのような社会でも悩みはあるものであり、そこは難しいなと思いました。
豊かさを手に入れた日本人が次に目指すべきものは何なのか。美しい街並みや美しい人々か。真の自由か。この本を読んで色々な事を考えさせられたような気がします。
次に読みたいと思っている本は『100分de名著 ファーブル昆虫記 2014年7月』です。
昆虫記から一般人である我々は何を学ぶ事ができるのか。少なくとも一冊の本になっているので、著者も価値のある提言や思想を展開しているのではないか、と思うのですが、それが具体的に何なのか、気になり、読んでみたいと思いました。
昆虫も我々の知らない所でこの世界に生きているのであり、そんな昆虫がどのような生活をしているのか、昔は私も昆虫採集に夢中になっていたな、といった事などを思い浮かべつつ、このような本を読んでみるのも面白いかもしれない、と思いました。