神奈川県にお住いの22歳女性(流通・小売系:書店員)が2022年11月頃に「群像5月号」で読んだ小説『月の三相』のレビューをご紹介します。
小説を見た感想や読みどころをネタバレ覚悟で解説しておりますので、小説を見る前に面白いのか知りたい方、評価や口コミが気になっている方は参考にしてください。
目次
小説『月の三相』を読もうと思ったきっかけ
気になって注目している作家さんでした。
この『月の三相』が私にとっての初読みになったのですが、とても静かで知的であるという評判通りの印象に止まらなくなりました。
本作は作家さんの芥川賞受賞後第1作であり、その評判には文芸誌初出の頃よりずっとそそられていました。
書籍化後はとっても素敵な表紙イラストと装幀のもと、立派に1つの物語として独立していて読んでみたい気持ちが増しました。
私がもっと大々的にオススメしたいと思える素敵な作品です。
小説『月の三相』の内容
場面設定は不思議なものが流行っている外国です。
ある日突然、人は眠りにつき何日も目を覚まさなかったり、そのまま亡くなってしまったりします。
その眠り病の真相は誰も突き止めることができていません。
人々はそこに対峙するように、眠りについた人たちを保存する方法をいろいろ考えました。
絵に描いたり、お面を掘ったり。
作中には色々な種類の芸術家が登場します。
その頭の中やセリフの内側には本当に深く広い世界が広がっているようで読者をワクワクさせます。
小説『月の三相』の作品情報
作品情報
- 出版社:講談社
- 著者:石沢 麻依
- 定価:本体1,700円+税
- 発行年月:2022年08月25日
- ページ数:240ページ
- ISBN:978-4-06-528838-2
- 言語:日本語
- 公式サイト:https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000368354
小説『月の三相』のあらすじ
「フローラが失踪した」。旧東ドイツの小さな街に広がる噂が、歴史に引き裂かれた少年と少女の物語を呼び醒ます。分断の時代を越えて、不在の肖像をたどる旅。
旧東ドイツに位置するその街では、誰もが自分の「肖像面」を持っていた。面に惹かれて移り住んだ三人の女たち――望、グエット、ディアナは、失われた「顔」を探して、見えない境界を越えていく。いくつもの時間が重層する街で、歴史と現在、記憶と幻想が交差して描き出す、世界の肖像画。
小説『月の三相』の読みどころをネタバレ覚悟で解説
私がネタバレ覚悟で解説したい小説『月の三相』の読みどころは大きく3つです。
この小説の読みどころ
- 眠りと死の真相は
- 芸術家たちの心意気
- 文章の静謐さ
眠りと死の真相は
この小説の中には眠り病にかかることを恐れる人々が登場します。
眠り病にかかると死んでしまうことがあるからであり、眠りの先にある死を恐れているためです。
私はこれはこの小説の中だけのことではないと思いました。
きっと昔から、世界中の人たちが眠りの中の世界と死後の世界についていろいろ考えていたと思います。
そこではどんな気持ちなのか、そこはどんな景色なのか。
眠ったまま死ぬことを恐れたり、それを安らかな最期だと言ったりもします。
2つの関わりについてを考えさせられました。
芸術家たちの心意気
本作には舞踊家、お面を掘る人、眠り病についた人の絵を書く人など、様々な種類の芸術家たちが登場して、芸術の都のようでした。
ヨーロッパの街並みに私たち日本人はもともとそんなイメージを抱きやすいのかもしれません。
芸術家肌という言葉があります。
作品の中に登場する芸術家たちが一体、どんな思い出その仕事をしているのか。
日々どんなものを見て考えているのか。
それを自由に想像するのはとても楽しく、またそれ自体が「芸術」だとも思いました。
文章の静謐さ
作家・石沢麻衣さんの文章は静かで優しいと評価する人が多い気がします。
本当に静謐で謎に包まれたような、夢のような心地よさがある文体でした。
純文学でありながら幻想文学のようでした。
幻想的に作り上げられた世界観の中で、確かに私たち現実の読者とも通ずる苦悩や日常がある。
そのことがとても不思議に感じられました。
また同時に親しみを覚えるための要素ともなっていたと思います。
静かで大人っぽい雰囲気を楽しみたい方にはお勧めします。
小説『月の三相』を読み終わった感想
静謐で幻想的な、語りすぎないけれども充分なことを書き込まれている小説だと思います。
世界中の人が1つの「死」を前にして繋がっているような印象を受け、そのことに胸が熱くなりました。
芸術とは祈りの一面があることに気がつきました。
眠りと死と、そして祈り。
不老不死や健康をどうしたって望んでしまう姿はとても人間らしく現実そのものなのにも関わらずとっても幻想的な夢の中のような心地よさを感じさせるのは作者さんの実力でしょうか。
小説『月の三相』で印象に残った名言
私が小説『月の三相』を読んで特に印象に残った名言です。
「クララ」のセリフ
でも、蝶の季節が終わるまでに間に合う?
小説『月の三相』の評価や口コミ
他の方が小説『月の三相』を見てどう思われているのか、評価や口コミを調べてみました。
石沢麻依『月の三相』読了。著者といえば漱石や寺田寅彦をインスパイアした小説で芥川賞を受賞したのが記憶に新しい。きれいな日本語と読み手の思考を引きだしてくれる作品。本格的な文学だけれど、読みやすさも持ち合わせている。#月の三相 pic.twitter.com/Ke76rI2L0b
— ヒロ (@Pocky1123) October 3, 2022
#読了
石沢麻依「月の三相」
群像 2022年5月号そこに住む人はみんな自分の面を作る旧東ドイツの小さな街のお話。
顔と面。面の表と裏。
名前や顔で外から押し付けられる印象など、興味深かった。時間のながれと人の思い。
読んでいると、夜の中にいるようで、しっかりした夢の中にいるよう。 pic.twitter.com/syqIZcus2G— かまぼこ@読書 (@IbqQm) May 6, 2022
月の三相/石沢麻依/#読了 美しいとしかいいようがない。蠱惑的な月の光に揺蕩いながら脈を残したまま静かに消えゆくストーリーに感動すら覚える。静謐に包まれた繊細で柔らかな文章に酔いそうだ。 pic.twitter.com/tVWJkuepUE
— カケル (@kiru__key_) September 13, 2022
おわりに
私が小説『月の三相』を読んだ感想や読みどころをネタバレ覚悟で解説してきましたが、「面白い」と感じられた方はぜひ読んでください。
次に読みたいと思っている小説は『分岐点まほろし』です。
可愛い表紙のハートフルな小説だそうです。