千葉県にお住いの25歳女性(金融・保険系:事務職)が2022年5月頃に読んだ『ハマータウンの野郎ども─学校への反抗・労働への順応』のレビューをご紹介します。
本書の概要や内容をわかりやすく要約してまとめておりますので、書籍を読んで学んだことや感想、評価や口コミが気になっている方は参考にしてください。
目次
『ハマータウンの野郎ども』を購入したきっかけ
大学時代に社会学を専攻しており、その際ゼミの先生が薦めていた本です。
古典としてよく知られている名著で、イギリスの労働階級に焦点を当てて考察しています。
当時は興味がなかったのですが、社会人として働く中でいろいろな職業の方と関わり、少しずつ社会の仕組みが分かってきて、「なぜこういった職種にはこういう特徴の方が多いのだろう」といった疑問がわいて手に取りました。
『学校への反抗 労働への順応』というサブタイトルにも惹かれました。
『ハマータウンの野郎ども』の概要
イギリスの中等学校の中で「落ちこぼれ」=「野郎ども」と呼ばれる労働階級の少年たちが、学校という組織に対してどういった態度で臨んでいるか、また学校を卒業した後の労働に対しての姿勢を、生活誌と考察によって丁寧に描き出しています。
「階級の再生産」に潜む当事者たちの意識や、大きなイデオロギーの中に組み込まれていく第二部の考察は分かりやすく、かつ精細に描写されており、時代や国が違えど社会という枠組みを捉えるためには参考になる本です。
また、第一部の生活誌では、少年たちとの対話がメインとなりますが、彼らのいきいきとした表現や生き方は読み物としても非常に面白いです。
『ハマータウンの野郎ども』の基本情報
基本情報
- 出版社:筑摩書房
- 著者:ポール・ウィリス
- 定価:本体1,450円+税
- 発行年月:1996年09月01日
- ページ数:480ページ
- ISBN:978-4-4800-8296-1
- 言語:日本語
- 公式サイト:https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480082961/
『ハマータウンの野郎ども』の目次
目次
- 序章 「落ちこぼれ」の文化
- 第1章 対抗文化の諸相
- 第2章 対抗文化の重層構造
- 第3章 教室から工場へ
- 第4章 洞察の光
- 第5章 制約の影
- 第6章 イデオロギーの役割
- 第7章 文化と再生産の理論のために
- 第8章 月曜の朝の憂鬱と希望
『ハマータウンの野郎ども』のYouTube(ユーチューブ)
『ハマータウンの野郎ども』についてYouTube(ユーチューブ)でわかりやすく解説してくれている動画がないか調べてみました。
「名著解説ラジオ(名著・解説猫)」チャンネルが細かく解説してくれているので、本を読む時間がない方はこちらのYouTube(ユーチューブ)動画をおすすめします。
『ハマータウンの野郎ども』から学んだことの要約とまとめ
『ハマータウンの野郎ども』から私が学んだポイントは大きく3つの内容です。
私が学んだこと
- 「落ちこぼれ」はなぜその立場を受け入れるのか
- 「落ちこぼれ」が優等生を馬鹿にする理由
- 階級の再生産の秘密
社会学、特に教育関係の研究をされる方にはぜひ手に取っていただきたいです。
落ちこぼれと呼ばれる生徒がなぜその扱いに甘んじているのか、また優等生(「野郎ども」には「耳穴っこ」と呼ばれている)という立場にある生徒たちの、一歩間違う得ると世間や労働への幻想が壊れてしまう危うさの理由を考えることができます。
会社、ひいては国という大きな枠組みの中で、個人が自分の立ち位置を再確認するきっかけにもなる本だと思います。
「落ちこぼれ」はなぜその立場を受け入れるのか
どの学校にもいわゆる「落ちこぼれ」といわれる生徒がいます。この本では「野郎ども」と言われる少年たちです。
彼らはそう呼ばれることに嫌悪は示しますが、その立場から抜け出す努力は見せません。
その主な理由は、学校での順応的な態度と引き換えに与えられる「成績」や「知識」に重きを置いていないからです。
彼らは学校から抜け出し、ディスコやバーでの騒ぎや、異性との交流に人生の楽しみを見出します。
将来のためにせっせと勉強に励むより、今を楽しむことが重要と感じている彼らは、いたずらや盗み、教師を出し抜いて「遊ぶ」ことを優先しているのです。
「落ちこぼれ」が優等生を馬鹿にする理由
優等生(「耳穴っ子」)たちは、将来の出世のために一生懸命勉強し、教師にも反抗をしません。
野郎どもにとっては彼らが馬鹿に見えてしまいます。「おれたちは『耳穴っ子』にはできないことをやっている」という意識がその侮蔑の底にはあります。
また、野郎どもは労働とは学校生活の延長――つまり、いかに「仲間たち」とふざけて日々を過ごすか、という捉え方をしています。
著者はこれを「フォーマル」「インフォーマル」と区別し、優等生たちはフォーマルな世界には順応可能ですが、インフォーマルな世界(仲間とふざける、ディスコやバーでふざける、異性と付き合う等)では生き残れないということを無意識に見抜き、自分たちの優位性を感じているのです。
実際、順応的だった生徒が工場に就職した後、いじめやからかいの対象となっているような記述があります。
階級の再生産の秘密
労働階級の子どもがまた労働階級へ、という構図は、一見社会の不平等を示しているように思えます。
しかし、当事者たちの文化では、上記に記述したとおり「労働に対して期待しない」こと大部分を占めています。
もちろん、労働階級の中でも上昇を目指して勉学に励む子どももいます。
ただ、労働階級の子どもたちが無意識に感じ取っている仕組み――「おれたちとやつら(権力者)」という敵対関係は根強く、教師・工場長といった管理側への排他的な感情が埋め込まれています。
また、肉体労働を誇りに思うような男尊女卑的な思想も混ざり合い、彼らは自らその職業を選択したと思い込み、精神労働を主とするホワイトカラーに就く人々を軽蔑さえするのです。
しかし、たとえば労働階級の子どもたちがこぞって上司志向を持ち、昇格のために努力を惜しまなかったらどうなるでしょうか?
安定した階級制度の崩壊危機、特に中産階級と呼ばれる人々の立場が脅かされることになります。
労働階級の子どもたちの反抗的・諦念的な態度は、社会全体にとって「ありがたい」こととなり、自由な職業選択を推奨する国家的な諸制度と矛盾しつつも、皆が暗黙のうちに再生産を受け入れているのです。"
『ハマータウンの野郎ども』の感想
社会に出て働く中で、なぜそこまで仕事に没頭できるのか?という会社員の方に出会うことがあります。
自分を仕事に捧げること、この本を通して見れば仕事=自己実現の人たちなのか、と納得します。
事務職の私は、日々の労働をなんとなくこなし、賃金やボーナスだけを目的に働く「野郎ども」の思考と少し似ています。
いろいろな働き方が可能になった現代だからこそ、もう一度この本を読み、自分と労働という関係を考え直すきっかけになった気がします。
『ハマータウンの野郎ども』の評価や口コミ
他の方が『ハマータウンの野郎ども』を読んでどう思われているのか、評価や口コミを調べてみました。
イギリス労働者階級の白人非行少年を調査した『ハマータウンの野郎ども』の中に、少年たちがアジア系男子学生を「女々しい」と蔑む一説が登場する。
民族差別がホモソーシャル的な攻撃に置き換わってるわけだけれど、本来は別の差別や抑圧をジェンダー化させて表現する事象は多いかもしれない。— 西井 開 (@kaikaidev) September 6, 2019
おー、100分de名著でまさかの『ハマータウンの野郎ども』
あれも、結局、不良が自分から低賃金の肉体労働者に行って階級再生産しちゃうよねっていう決定論だけでなく、一応そこには抵抗の可能性が見出だされるという話だと思う。
— ねころじかる (@neco_logical) December 21, 2020
ウィリス『ハマータウンの野郎ども』は、小説のように面白い。語られたことと、語られる背景となった社会構造との関係を素朴に取り結んでいる様子が、このあと40年間の生活誌の議論を考えると素朴すぎるけれども、こういう方法なりの力がある。しかしゼミのマイルドヤンキー論文が何度も頭をよぎる…。
— 吉江俊 (@___shun) October 11, 2020
みなさん本書を読んで学んだことが多いみたいですね!
おわりに
社会の大きな枠組みの中で、労働力というものがどのように動いているのか、供給されているのか少し分かった気がします。
前知識があった方が楽しめますが、なくても資本主義的なイデオロギーを理解することの助けとなる本です。
また、労働に携わる人々の意識、そこから生み出される文化の中身を考えて、その人の背景について洞察する思考の仕方を学びました。
誰かと関わる際に、相手がどういった人物で、どのように暮らしてきたのかを考察することの大切さを感じます。
次に読みたいと思っている本は『群集心理』です。
SNSが活発になった現代で、「ネットリンチ」と呼ばれる事象をたびたび目にします。
人は群集としてその中に紛れると攻撃的になってしまう現象はなぜなのか、ましてや匿名での攻撃が可能となった今、群集という危険性を学んでみたいと思っています。
また、ヒトラーや毛沢東を例に、大勢の人間が同じ方向を向くとどのような悲劇が起こるのか、結局一番の要因は何だったのかを自分なりに考えてみたいです。
同時に、群集というものをプラスに持っていく方法もあるのではないかなと考えています。