青森県にお住いの45歳女性(マスコミ系:フリーランス)が2022年11月頃に「紙の本」で読んだ小説『猫を棄てる 父親について語るとき』のレビューをご紹介します。
小説を見た感想や読みどころをネタバレ覚悟で解説しておりますので、小説を見る前に面白いのか知りたい方、評価や口コミが気になっている方は参考にしてください。
目次
小説『猫を棄てる 父親について語るとき』を読もうと思ったきっかけ
単行本が発売されたばかりだったので、以前からその本の存在は知っていて興味があったこともあり、迷わず購入しました。
この本は普段は物語を作る作家自身にまつわる話でもあり、作品を通して其処かしこに見られた暗い影の正体のようなものを的確に表したものでもあると思っています。
個人的には長いわだかまりがほどけたからこその作品になったのではないかと思いましたし、その出来事を通してこれからの作風の変化がどう変わっていくのかも大変楽しみでもありますね。
小説『猫を棄てる 父親について語るとき』の内容
血が繋がり、何不自由なく育てられたからと言ってそういう家族が皆、誰しもわかりあえて幸せであるとはいいがたい世の中です。
父と子の関わり合い方も、ごく一般の家庭と変わりないように思いますし、その幾らか拗れてしまった関係が最終的にはいい方向に向かったこと、そして亡き後、独自に裏どりをしたうえで出版に至ったことも、作者自身知らずに抱え込み、またいつの間にか負担になるような重しにもなっていたものへの一種のけじめのつけられたようにも思えました。
小説『猫を棄てる 父親について語るとき』の作品情報
作品情報
- 出版社:文藝春秋
- 著者:村上春樹
- 定価:本体1,200円+税
- 発行年月:2020年04月23日
- ページ数:104ページ
- ISBN:978-4163911939
- 言語:日本語
- 公式サイト:https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163911939
小説『猫を棄てる 父親について語るとき』のあらすじ
父の記憶、父の体験、そこから受け継いでいくもの。村上文学のルーツ。
ある夏の午後、僕は父と一緒に自転車に乗り、猫を海岸に棄てに行った。家の玄関で先回りした猫に迎えられたときは、二人で呆然とした……。
寺の次男に生まれた父は文学を愛し、家には本が溢れていた。
中国で戦争体験がある父は、毎朝小さな菩薩に向かってお経を唱えていた。
子供のころ、一緒に映画を観に行ったり、甲子園に阪神タイガースの試合を見に行ったりした。いつからか、父との関係はすっかり疎遠になってしまった――。
村上春樹が、語られることのなかった父の経験を引き継ぎ、たどり、
自らのルーツを初めて綴った、話題の書。
小説『猫を棄てる 父親について語るとき』の読みどころをネタバレ覚悟で解説
私がネタバレ覚悟で解説したい小説『猫を棄てる 父親について語るとき』の読みどころは大きく3つです。
この小説の読みどころ
- 作家の猫と父の関り
- 父の生涯
- 作者自身にとっての「蜂蜜パイ」
作家の猫と父の関り
一番最初にはとある思い出が語られています。
それは家には猫が割と居つく家だったことや、ある日、父親が猫を棄てに行くために子どもを連れて家から離れた海岸沿いの樹のところに猫を棄てたものの、家から戻るとその猫は先に家に戻っていたが、父親はそれに対してなぜかホッとしており、それ以降猫を棄てに行くことはなくなった話が描かれています。
これはある種、その後の父親にまつわる生涯においても非常に重要な前フリになっています。
父の生涯
ここでは父親の生涯が端的に語られています。
なるだけ身内である父親への感情を排除して一作家による一個人に対しての生涯を描いているようですし、そのように努力していたと思います。
ここで戦争を経験していることや、その戦後を乗り越え、家族を持ち、そして父と子の分かり合えないが故の心の離別を経て、残された最期の前の和解のようなものを果たしたこと、それから作者自身による父親の戦争体験の裏どり調査を経て、この「物語」を、どうまとめて主に自分に対する落とし前とするかの過程が見えてくるようでした。
作者自身にとっての「蜂蜜パイ」
作家の短編に、家族の再生をテーマとする内容の「蜂蜜パイ」という話があります。
割と最後にはほっこりとするような、ちょっと毛色の変わったハートウォーミングな作品なのですが、作者にとっての「蜂蜜パイ」が「猫を棄てる」なのだなという感想を持ちました。
もし父親と和解することがなかったら、父の生涯をくまなく調べることもせずに、ましてや作品として完成させることはなく、人目に触れることはなかったかもしれません。
作品自体になることもなかったかもしれないのですから。
小説『猫を棄てる 父親について語るとき』を読み終わった感想
これまで作家の作品には、父親との不仲さが一種の普遍的なテーマとして随所によく出没していたように思います。
私のようなライトなファン層にでさえ、それは長年、周知の事実として伝わっていました。
この本の内容を読んで作家自身もしくは父親も含んで、その一種のカルマからは解放されたのだなという謎の安ど感と、この経験を反映した作品にこれから出会えるのだなという新たな期待があり、この先に生まれてくる物語が楽しみになっています。
小説『猫を棄てる 父親について語るとき』で印象に残った名言
私が小説『猫を棄てる 父親について語るとき』を読んで特に印象に残った名言です。
いきおいよく読んでしまったので覚えていなかったです。。。
小説『猫を棄てる 父親について語るとき』の評価や口コミ
他の方が小説『猫を棄てる 父親について語るとき』を見てどう思われているのか、評価や口コミを調べてみました。
村上春樹さん『猫を棄てる 父親について語るとき』読了。父親のことを文章にするのはとても難しい作業に思いませんか。少なくとも私はそう感じます。その存在は、意識・無意識に関わらず、どこかで繋がって自分の一部分になっています。もしかすると猫がそれを忘れない様に支えてくれているのかも♪ pic.twitter.com/Al7WYGnIif
— KOBAYASHI (@KOBAYASHI0099) May 28, 2022
車内で読了。「猫を棄てる 父親について語るとき」村上春樹。
いつか書かなくては、と思い続けた末に産まれたということがうなずける、ごく私的な物語。父親の人生を辿りつつ、この世の、人間の生命の連鎖について考えさせられるようなラストの視野のずらされ方が心地よい。高妍さんの挿絵も趣き深い pic.twitter.com/HqMPpXjn8C— 栗生藤代 (@fujiyo_kuryu) January 9, 2021
猫を棄てる
父親について語るとき
村上春樹終始読みやすい文体で綴られる
父との思い出を語るエッセイ
疑似体験でもあり歴史のひと雫でもあるという俳句は、戦争体験の生々しさとは対照的に静謐さを伴い胸に沁みる
猫のくだりは笑みがこぼれた
外せない思い出なのだなとじんわりきました#読了 pic.twitter.com/oOzdKDkdc1— 鈴蘭📖💐【すず】 (@suzu_uran) June 27, 2022
おわりに
私が小説『猫を棄てる 父親について語るとき』を読んだ感想や読みどころをネタバレ覚悟で解説してきましたが、「面白い」と感じられた方はぜひ読んでください。