千葉県にお住いの40歳男性(流通・小売系:物流センターの検品担当)が2022年2月頃に「紙の本」で読んだ小説『ジャックポット』のレビューをご紹介します。
小説を見た感想や読みどころをネタバレ覚悟で解説しておりますので、小説を見る前に面白いのか知りたい方、評価や口コミが気になっている方は参考にしてください。
目次
小説『ジャックポット』を読もうと思ったきっかけ
80歳を越えてもその旺盛な創作意欲は衰えることなく、毎年のようにエネルギッシュに新作を発表し続けている筒井康隆さん。
自粛生活が長引き行動制限が続くこんなご時世でも、歯に衣着せぬ発言で賛否両論を巻き起こしていることでも有名ですね。
若手小説家のほとんどが空気を読んで、当たり障りのない作風が主流となっているのは物足りません。
時代の流れに逆行するかのようなベテラン作家の、挑発的な最新刊をおそるおそる手に取ってみました。
小説『ジャックポット』の内容
新種のウイルスによるパンデミックが押し寄せてくる中でも、「おれ」は好きな映画を観たり文芸雑誌から依頼された原稿を書いたりと悠々自適の日々を過ごしていました。
そんな最中に息子の伸輔が食道癌にかかった末に、わずか51歳の若さでこの世を去ってしまい妻はすっかり落ち込んだ様子です。
通夜と葬儀を済ませてようやくひと段落ついた頃、自宅のベッドで休んでいたはずがいつ見知らぬ川のほとりに立っています。
果たしておれたち夫婦は夢の中で、愛する我が子との再会を果たすことができたのでしょうか?
小説『ジャックポット』の作品情報
作品情報
- 出版社:新潮社
- 著者:筒井 康隆
- 定価:本体1,600円+税
- 発行年月:2021年02月17日
- ページ数:284ページ
- ISBN:978-4-10-314534-9
- 言語:日本語
- 公式サイト:https://www.shinchosha.co.jp/book/314534/
小説『ジャックポット』のあらすじ
コロナ禍、戦争、ジャズ、映画、文学、嫌=民主主義、そして息子の死――。
小説『ジャックポット』の読みどころをネタバレ覚悟で解説
私がネタバレ覚悟で解説したい小説『ジャックポット』の読みどころは大きく3つです。
この小説の読みどころ
- 令和に甦る往年の名優たち
- タイムリーな話題をブラックユーモアで斬る
- 感傷的な慰めよりもシンプルで力強い言葉を
令和に甦る往年の名優たち
「エノケン」の愛称で有名な榎本健一から、「ロッパ」の渾名で親しまれた古川緑波まで。
昭和初期に浅草の小劇場を賑わした舞台役者や、戦前のモノクロフィルムで人気を博した映画俳優が次から次へと登場します。
彼らの活躍をリアルタイムで体感した方は少数派で、多くの皆さんがリバイバル上映や再放送でその名を知ったはずでしょう。
そんな旧き良き時代のエンターテイナーたちの姿を、物語の中で生き生きと映し出すのが筒井康隆の真骨頂です。
タイムリーな話題をブラックユーモアで斬る
1940年代の後半に喫煙者のあいだで流行っていた煙草のコロナ、2020年から世界を揺るがしているコロナ禍。
ふたつの時代のまるっきり異なる「コロナ」を、ひとつに繋ぎ合わせてしまう大胆な発想には驚かされました。
お堅い文芸評論家からは、「軽薄」「不謹慎」などと批判されることは避けられません。
その一方では「東海道戦争」や「ベトナム観光公社」など、初期の筒井作品に馴れ親しんできた熱心なファンには自信をもってお薦めできますよ。
感傷的な慰めよりもシンプルで力強い言葉を
いつかは必ず訪れる大切な家族のお見送り、誰しもが乗り越えなければならない掛け替えのないパートナーとの死別。
そんなセンセーショナルなテーマを真正面から取り上げながらも、必要以上に涙を誘うような描写は少ないです。
著者自身もここ数年で小松左京や眉村卓など同時代の仲間たちを失い、プライベートでは身内の不幸に見舞われました。
敢えてサラリと表現することによって多くの読者の共感を呼び、その哀しみを僅かながらでも癒そうとしているのかもしれません。
小説『ジャックポット』を読み終わった感想
この本を読み終わった方はオイルパステルで描かれた不思議なデザインの表紙を眺めつつ、最後の見開きのページを見てください。
「装画 筒井伸輔」の献辞には深いメッセージが込められているようで、胸が締め付けられてしまいます。
自らを「末期高齢者」と皮肉りながらも健康長寿に恵まれたSF作家と、天賦の才能を授かりながらも夭逝で終わった画家。
現実の世界では2度と会うことはない親子が、せめて小説の中でいつまでも一緒にいられることを願うばかりです。
小説『ジャックポット』で印象に残った名言
私が小説『ジャックポット』を読んで特に印象に残った名言です。
「おれ(主人公)」のセリフ
死後の世界などない。あるというロマンは理解できるが、現実には存在する筈がない。
小説『ジャックポット』の評価や口コミ
他の方が小説『ジャックポット』を見てどう思われているのか、評価や口コミを調べてみました。
筒井康隆のコロナ禍小説「ジャックポット」。縁のない作家だと思っていたが、隅々まで共感した。 pic.twitter.com/Rs6F8igIfo
— 米本浩二 『水俣病闘争史』 (@yonepenpen) July 28, 2020
筒井康隆『ジャック・ポット』(新潮社) 2017年から21年まで、文芸雑誌に発表された短編を集めた最新作品集。表題作は、昨年発表されたコロナ小説でもある。装画は51歳で亡くなった息子筒井伸輔氏。最後の「川のほとり」は、夢での息子との再会を描いた短編。恩年86歳、筒井康隆が健在でいる奇跡。 pic.twitter.com/eSmVy5Vtnd
— ストラングル・成田 (@stranglenarita) March 9, 2021
筒井康隆『ジャックポット 』読了
シュールレア リズムな実験小説とエッセイ風私小説を14編収録した短編集。
80代半ばにして筒井康隆節は健在で、衰えることのない才能を見せつけてくれます。個人的にはラジオDJ風に自らの死生観を語るダークナイト・ミッドナイトがお気に入り。 pic.twitter.com/HEOqmAVm1U
— HM(物語良品館資料室出張所) (@ruinsfactory) March 15, 2021
おわりに
私が小説『ジャックポット』を読んだ感想や読みどころをネタバレ覚悟で解説してきましたが、「面白い」と感じられた方はぜひ読んでください。
次に読みたいと思っている小説は『聖痕』です。
著者は同じく筒井康隆、挿画も筒井伸輔。朝日新聞に2012年から13年にかけて連載されていたものを単行本化したもの。
幼い頃に身体の一部を奪われた美少年が、成長していくにつれて美食に目覚めるという耽美的な長編小説です。