東京都にお住いの39歳男性(サービス系:介護)が2022年11月頃に「紙の本」で読んだ小説『淵の王』のレビューをご紹介します。
小説を見た感想や読みどころをネタバレ覚悟で解説しておりますので、小説を見る前に面白いのか知りたい方、評価や口コミが気になっている方は参考にしてください。
目次
小説『淵の王』を読もうと思ったきっかけ
数年前から舞城王太郎作品のファンでもあり、舞城作品はほとんど読んできましたが、この本が未読であったことを知り先日購入しました。
好きな作家ということもあり、内容やあらすじは一切見ないで読みましたが、結果的に大満足の一冊でした。
読破後にいくつかのレビューサイトを見ましたが、多くの人は自分と同じような感想を持っていて、また、個人サイトやブログ等でも様々な考察をされている人もいて、その意見も踏まえてもう一度読み直したくなる作品です。
小説『淵の王』の内容
ジャンルはホラーで、『穴』という共通点はありますが、三つの物語はそれぞれ独立した中短編となっています。
大まかなイメージとしては、ブラックホールのような穴が現れ、それぞれの主人公がその穴と対峙する内容です。
全く性質の違う三人の主人公が、どの様に穴と関わり、抗うのかが読みどころのひとつだと思います。
また、他の舞城作品同様、登場人物たちの軽妙かつリアル感溢れる会話も健在で、最後までテンポ良く読み進めることができます。
小説『淵の王』の作品情報
作品情報
- 出版社:新潮社
- 著者:舞城王太郎
- 定価:本体1,500円+税
- 発行年月:2015年05月29日
- ページ数:319ページ
- ISBN:978-4-10-458007-1
- 言語:日本語
- 公式サイト:https://www.shinchosha.co.jp/book/458007/
小説『淵の王』のあらすじ
友達の部屋に現れた黒い影。屋根裏に広がる闇の穴。正体不明の真っ暗坊主。そして私は、存在しない存在。“魔” に立ち向かうあなたを、ずっと見つめていることしかできない。最愛の人がこんなに近くにいたことに気づいたのは、すべてが無くなるほんの一瞬前だった……。
小説『淵の王』の読みどころをネタバレ覚悟で解説
私がネタバレ覚悟で解説したい小説『淵の王』の読みどころは大きく3つです。
この小説の読みどころ
- 小説の自由さ
- 理不尽な恐怖
- 深い愛
小説の自由さ
一般的に小説は一人称か三人称で書かれることがほとんどだと思いますが、この作品は二人称で書かれています。
私は二人称で書かれた作品を初めて読みましたが、全く違和感もなく読み進めることができました。
この作家だからこその読み易さなのかもしれません。
また、ワンシーンで数ページに及び会話が続いたかと思えば、情報量の多い1ページで数年が経過しそのままエンディングへ向かうこともあるなど、独特の緩急さもあり、小説の自由さも感じさせてくれました。
理不尽な恐怖
ホラー作品に付き物なのが「理不尽な暴力」だと思います。
ジェイソンしかり、貞子しかり、主人公たちは死の恐怖に怯えながらもただ逃げることしかできず、読者はそんな彼らに感情移入しながら恐怖心を共有し、それを楽しんでいるのでしょう。
この作品でも、圧倒的な「穴」という存在に、登場人物は一方的に蹂躙されてしまいます。
その恐怖や絶望感、そして怒りも、独特の文体から滲み出るかのように読者に伝わり、読めば読むほど没入感も高まります。
深い愛
語り部は主人公ではなく、主人公の中にある別人格……というより、守護霊的な存在の言葉で語られています。
その存在は主人公に対して当然好意的であって、生まれた時から片時も離れず見守ってきている相手なので愛情も愛着も深く沸き起こっても不思議ではありませんが、この「愛」がとても深く強い愛情なのです。
恋愛小説にあるような、好きとか嫌いとか、軽い想いではなく、文字通り一心同体でもある相手に対する愛情表現が散りばめられていて、そういう要素が、ただ単純に怖いだけではなく読後感の良い作品に仕上がっている理由なのかもしれません。
小説『淵の王』を読み終わった感想
何度も読み返したくなる作品でもあり、既に三回読み直していますが、毎回泣いています。
感動がメインでもなければ、泣くシーンなんてないと断言する読者もいるとは思いますが、私はこの先何度読んでも泣くと思います。
それは偏に登場人物への感情移入であって、悔しさや悲しさや辛さ等を感じ取っているからでもありますが、一番感動するのはやはり三話目のクライマックスからエンディングにかけてです。
「穴」の正体に迫り、その存在に初めて一矢報いることができ、また語り部が自身の本心に気付くことによって感情が触れ出すシーンはそのページだけ読んでも泣いてしまいます。
数年ぶりに、この本を読んでよかったなーと思える一冊と出会えました。
小説『淵の王』で印象に残った名言
私が小説『淵の王』を読んで特に印象に残った名言です。
「湯川虹色」のセリフ
「ここで今だと思うよ、悟堂」
小説『淵の王』の評価や口コミ
他の方が小説『淵の王』を見てどう思われているのか、評価や口コミを調べてみました。
舞城王太郎「淵の王」読了。それぞれの短編の主人公達を見守る第三者視点で語られる光の(?)ホラー小説。日常に潜む怪異的な怖さを見せながらどれも美しく締めてくれるのが気持ちが良い。舞城作品は物語を楽しむ以上に文章自体を楽しむという読書の原初的な楽しみ方を教えてくれるので良い。 pic.twitter.com/SqTAxFOfSz
— ちゃんまるマンユニバース (@chanmaruo9) April 22, 2023
舞城王太郎さんの「淵の王」読み終わりました。途中からホラー的になってきて怖かった。ハテナの部分もあっただけど、先が気になって一気に読みました。不安で不思議な感じだったけど面白かったです。 pic.twitter.com/LFH0zV1ICR
— ただのカカシ (@water_plants) February 16, 2023
急に思い出したんだけど、舞城王太郎の『淵の王』は本当に怖かった。不思議な視点で描かれた人間の一生を、ぼんやり眺めるつもりで読んでいたら、いつのまにかその一生が抗いようのない怪異に引き寄せられていくのを指咥えて見てる。あまりに突然で、理不尽で、寂しくて怖い。
— 🥀EMOMI🥀 (@hypemomi2) January 26, 2023
おわりに
私が小説『淵の王』を読んだ感想や読みどころをネタバレ覚悟で解説してきましたが、「面白い」と感じられた方はぜひ読んでください。
次に読みたいと思っている小説は『殺戮にいたる病』です。
サイコキラーが殺人を繰り返すホラー小説です。